西園寺花ごよみ

2019.8.1
桔梗 キキョウ - Platycodon grandiflorum

 貧窮問答歌で知られる万葉歌人、山上憶良はこんな歌も詠んでいる。

秋の野に 咲きたる花を 指(および)折り かき数ふれば 七種(ななくさ)の花

萩の花 尾花 葛花 瞿麦(なでしこ)の花 女郎花(をみなえし) また 藤袴 朝貌(あさがお)の花  

 素朴で、どこか懐かしさを覚える歌。尾花はススキ、朝貌はアサガオ、ムクゲなどの説もあるが、キキョウであるというのが有力らしい。つり鐘状の美しい花は、古来より家紋や着物の柄などに用いられ親しまれてきたが、今や絶滅危惧種となってしまった。秋の花のイメージが強いが、開花時期は現代の暦で言うと梅雨の間から9月頃まで。花は青紫色の他に園芸種の白もあり、境内に点在するキキョウにも白花がちらほら見られる。憶良の歌にある七種すべては揃わないが、西園寺の秋の花を、指折り数えて探してみるのも楽しい。

 

参考文献

大岡信『折々のうた』岩波新書113、1980年。

澤瀉久孝『萬葉集注釋巻第八』中央公論社、1961年。

木下武司『万葉集植物さんぽ図鑑』世界文化社、2016年。

牧野富太郎『牧野新日本植物図鑑』北隆館、1980年。