西園寺花ごよみ

2019.12.2
南天  ナンテン - Nandina domestica

 晩秋から初冬にかけて玉のように美しい赤い実をつける。「ナンテン」の音が「難転」、つまりは「難を転ずる」に通じることから縁起物として玄関先などに植えられる。常緑の低木であるが、ごく稀に大きく育つものもあるという。中でも有名なのが金閣寺の茶室「夕佳亭(せっかてい)」の床柱に使われている南天の木。日本で最大級の南天材と称されるが、植物学者の牧野富太郎は、大正十二(1923)年に備後地方で手に入れ自らが秘蔵している太さ九寸(約27㎝)の南天材こそが「今私の知り得る範囲では最大な南天の巨材である」と主張している。それから一世紀近く経つが、その巨材を上回る南天は発見されたのだろうか。

 それより少し前の明治時代、南天の棒を引っ提げ全国を行脚した豪僧がいた。西園寺にも縁の深い松島の瑞巌寺や仙台の大梅寺の住職でもあった中原南天棒こと中原鄧州(とうしゅう)である。九州巡回中たまたま通りかかった百姓の家の牛小屋の片隅にあった樹齢200余年の南天を切り出し、それを警策代わりにしたことからその名がついた。当時は禅僧が修行道場のある寺を訪ね、師家(指導者)を相手に禅問答を所望するということがあった。鄧州は禅門の乱れを糾さんと道場破りを敢行、打ち負かした相手を容赦なく南天棒で叩きつけたとか。実や葉にばかり目が行きがちだが、南天は幹にこそ逸話あり。

 

参考文献

中原鄧州『南天棒行脚録』大阪屋号書店、1921年。

牧野富太郎『植物一日一題』ちくま学芸文庫、2008年。