西園寺花ごよみ

2019.9.1
彼岸花 ヒガンバナ - Lycoris radiata

 秋の彼岸が近づくと、西園寺墓地の土手を赤く染める彼岸花。群生する真紅の花々は燃え盛る炎のように美しいが、その一つ一つを間近で眺めてみるとなかなかに毒々しい。実際、球根には毒を含むというから、人を寄せ付けないための姿形なのだろうか。彼岸花の別名、曼珠沙華(まんじゅしゃげ)とはサンスクリット語のマンジューシャカの音写で、「天界の花」の意。仏法が説かれる時の吉兆として天から降るものとされるが、この曼珠沙華を詠んだ句には何だか残念なものが多い。 仏より痩せて哀れや曼珠沙華 夏目漱石 むらがりていよいよ寂しひがんばな 日野草城 曼珠沙華弘法去って毒の木 松根東洋城 曼珠沙華曼珠沙華とはなりきれず 加藤楸邨  漱石の「仏より痩せて」とは、ひょろりと高く伸びた葉のない茎のことであろうか。葉は花も終わった晩秋の頃、後からにょきにょき生えてくる。葉が出ないうちにまず花を咲かせるという意味で、「先ず咲き」または「真っ先」に仏教と関連づけて「曼珠沙華」の字を当てたという、冗談のような説もある。また地方の俗名が多く、何十もの方言があるという。中には何とも気の毒な名前もあるようだが、何にせよ彼岸の墓参りにはつきものの存在だ。今年もまた曼珠沙華と共に、秋の彼岸がやってくる。

参考文献 鎌田茂雄監修『俳句・和歌・漢詩 仏教歳時記』斎々房、1998年。 牧野富太郎『植物一日一題』ちくま学芸文庫、2008年。