西園寺花ごよみ
2020.7.2
夏椿 ナツツバキ - Stewartia pseudocamellia
聖木として仏教寺院の境内に植えられることの多い沙羅の木(シャラノキ)こと夏椿。西園寺も例外ではなく、梅雨の長雨の時期に山門の脇から顔を覗かせる清らかな白い花は、行き交う人々の心を和ませてくれる。沙羅はサンスクリット語のシャーラの音写。シャーラは淡い黄色の花を咲かせるフタバガキ科の常緑高木で、お釈迦様がクシナガラで入滅する際、その四方には一対ずつのシャーラ(沙羅双樹)が生えていたという。そしてお釈迦様が涅槃に入ると、その合計八本のうちの半分がまたたく間に枯れたのだとか。これを四枯四栄といい、お釈迦様の肉体は滅びてもその教えは後世に残ることの例えとされている。
日本では沙羅の木こと夏椿がこのシャーラであるとされがちであるが、シャーラはインド原産で日本には存在せず、ツバキ科の落葉高木である夏椿とはまったく別の花。たまたまちょっと似ていたので混同されてしまったようであるが、もともと寺院によく植えられていたので間違えられたのか、本場の沙羅双樹と勘違いされた結果広く寺院で植えられるようになったのかは不明。朝に咲き、夕に散る一日花。そんな儚さが仏教の無常観に通ずるものがあり、お釈迦様ゆかりの木と混同される所以なのかもしれない。
参考文献
鎌田茂雄監修『俳句・和歌・漢詩 仏教歳時記』斎々房、1998年。