今月の禅語

2024.4.23
其の五五
龍吟雲起 虎嘯風生 りゅうぎんずればくもおこり とらうそぶけばかぜしょうず

 龍が叫べば雲が巻き起きる。虎が吼えれば自然に風が生じてくる。無心にして互いに呼吸がぴったり。

 「龍吟ずれば雲起こり、虎嘯(うそぶ)けば風生図」。龍虎がそれぞれにうなり声をあげて相対峙する。気迫に満ちた傑物同士の出会いの様子です。龍も虎も強い者の形容ですが、この「強い」というのは腕力が強いことだけではなく、むしろ道を求める心、願心や求道心の強さをあらわしています。

 人生、ただ漫然と生きるだけでは物足りません。やはり心の内から湧き起こる尽きざる願心に支えられた鋭さが必要です。ある時には自らが龍となり、一心不乱にこの世の真実を求めてゆく。そうすると、周りの人がその真摯な姿を見て感化されてゆきます。雲が起こるのです。またある時には自らが虎となって、邪悪なものを拒み、いさめる勇気を持ち続ける。徳は孤ならず。風が生じます。

 他人事ではなく、自分自身が龍や虎になりきって自ら雲や風を起こし、高らかに仏法を掲げ、人生を歩んでいきたいものです。

出典:『碧巌録』第九九則

垂示に云く、龍吟ずれば雲起り、虎嘯けば風生ず。出世の宗猷は金玉相い振い、通方の作略は箭鋒相挂る。

この連載について

 禅語とは禅の教えを端的に示した言葉です。悟りの境地を示していたり、修行者を悟りに導いたりするために用いられてきました。仏のこころはお釈迦さまから弟子へと、器の水を残さず次の器に移すが如く連綿と受け継がれていき、28代目の達磨大師により坐禅を仏道修行の中心に据えて、インドから中国に伝えられたとされています。

 禅語には禅僧が自身の悟りの境地を示したもののほかに、仏教経典、中国古典、詩文集等の様々な文献からも引用されています。今日では、床の間に掛けられた掛軸(墨蹟)に書かれた言葉として目にしたことのある方も多いのではないでしょうか。

 「不立文字(ふりゅうもんじ)、教外別伝(きょうげべつでん)(文字は全てを表現できず、文字で表現し尽せないところに伝えるべき核心がある)」という禅の家風もあり、禅語はその字義だけを考えても意味の分からないものもあります。禅仏教では自身の実践を重視しますが、禅語の紹介を通して皆様自身が字義の奥に潜む本当の意味、祖師方が伝えんとしてきたものを感じて頂けると幸いです。

 ここでは禅的教育研究グループ「じだんだ」の発行した「禅語カルタ百句」を紹介していきます。「禅語カルタ百句」は難解なイメージを持たれがちな禅語に如何にして親しんで貰うかというテーマのもとに製作されたカルタです。イラストが理解の助けとなり、禅語に触れる第一歩として適したものとなっております。じだんだ代表の柳楽一学師の許可を得てここに掲載してまいりますが、「禅語カルタ百句」にご興味の方は下記までご連絡願います。

 「とっつきにくい禅語に入っていく開かれた門となれば幸いです」柳楽一学

禅的教育研究グループ「じだんだ」 代表:柳楽一学
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