今月の禅語

2023.11.9
其の五二
好雪片片 不落別處 こうせつへんぺん べっしょにおちず

 ほほう、なんときれいな雪だこと。天に一杯、地に一杯。

 雪がしんしんと降っています。「好」は感嘆の語、なんとまぁ。その雪は別の所へ落ちることはありません。一ひら一ひらがぴたりぴたりと定められたように、落ちるべき位置に舞い落ちてゆきます。ここにだけたくさん降って、あそこには少しも降らない、ということもありません。分け隔てなく等しく積もってゆきます。

 龐居士(ほうこじ)が薬山惟巌禅師(やくさんいげんぜんじ)のもとを去る際、雪を指さしながら発した言葉です。雪が誠に無心に大地に落ちてゆく。特別に変わったところに落ちるわけではない。すべて落ち着くところに落ちて消えてゆく。雪に意志があろうはずはありませんが、身心を脱落しきった無心さ、無心の雪が当然のように無心に大地に落着してゆく、その落ちっぷりに感動した句です。天に一杯。地に一杯。それぞれが自己の本分を、そのままの姿でまっとうしています。どこに落ちるのかと詮索する必要もありません。こちらも無心に雪を眺めるだけです。私たちも、信じた道を迷わずまっすぐ生きていきたいものです。

出典:『碧巌録』第四二則

龐居士、薬山を辞す。山、十人の禅客に命じて相送りて門首に至る。居士、空中の雪を指さして云く、好雪片片、別処に落ちず。

 

この連載について

 禅語とは禅の教えを端的に示した言葉です。悟りの境地を示していたり、修行者を悟りに導いたりするために用いられてきました。仏のこころはお釈迦さまから弟子へと、器の水を残さず次の器に移すが如く連綿と受け継がれていき、28代目の達磨大師により坐禅を仏道修行の中心に据えて、インドから中国に伝えられたとされています。

 禅語には禅僧が自身の悟りの境地を示したもののほかに、仏教経典、中国古典、詩文集等の様々な文献からも引用されています。今日では、床の間に掛けられた掛軸(墨蹟)に書かれた言葉として目にしたことのある方も多いのではないでしょうか。

 「不立文字(ふりゅうもんじ)、教外別伝(きょうげべつでん)(文字は全てを表現できず、文字で表現し尽せないところに伝えるべき核心がある)」という禅の家風もあり、禅語はその字義だけを考えても意味の分からないものもあります。禅仏教では自身の実践を重視しますが、禅語の紹介を通して皆様自身が字義の奥に潜む本当の意味、祖師方が伝えんとしてきたものを感じて頂けると幸いです。

 ここでは禅的教育研究グループ「じだんだ」の発行した「禅語カルタ百句」を紹介していきます。「禅語カルタ百句」は難解なイメージを持たれがちな禅語に如何にして親しんで貰うかというテーマのもとに製作されたカルタです。イラストが理解の助けとなり、禅語に触れる第一歩として適したものとなっております。じだんだ代表の柳楽一学師の許可を得てここに掲載してまいりますが、「禅語カルタ百句」にご興味の方は下記までご連絡願います。

 「とっつきにくい禅語に入っていく開かれた門となれば幸いです」柳楽一学

禅的教育研究グループ「じだんだ」 代表:柳楽一学
☎0855-42-0830(隆興寺) mail:Seki56old@iwamicatv.jp