今月の禅語

2020.12.1
其の十八
不易流行 ふえきりゅうこう

流されず、変わらぬものは価値がある。転変の世に変えてはならないものもある。

 「不易」とは、どんなに時代が移り変わっても不変なことをいい、「流行」とは、その時々に合わせて変わっていくことをいいます。これは、『老子』の「無用の用(役に立っていないように見えて実は役に立っていること)」が語源となっており、松尾芭蕉の俳諧の基本理念として説かれたものです。しかし、芭蕉自身がこの言葉を残したのではなく、その弟子が『去来抄(きょらいしょう)』の中で「不易を知らざれば基(もと)立ちがたく、流行を知らざれば風新たならず」と記しており、これが元となり後世に伝えられています。

 時代は移り変わり、多くの祖師方(そしがた)が活躍された頃とは大きく社会も生活形態も変わっています。これは正に「流行」というべき点でしょう。しかし、人として生きている私たち自身は何一つ変わらないわけです。苦しみや悲しみの根本は、お釈迦様の時代を生きた人々も、現代に生きる私たちも変わることはありません。色々と変化するものの中に、何も変わらない真実があるということをしっかりと見つめることが大事です。

出典:『去来抄』

蕉門に千歳不易の句、一時流行の句というあり。これを二つに分けて教え給えども、その元は一つなり。不易を知らざれば基たちがたく、流行を知らざれば風新たならず。

 

 

 

 

この連載について

 禅語とは禅の教えを端的に示した言葉です。悟りの境地を示していたり、修行者を悟りに導いたりするために用いられてきました。仏のこころはお釈迦さまから弟子へと、器の水を残さず次の器に移すが如く連綿と受け継がれていき、28代目の達磨大師により坐禅を仏道修行の中心に据えて、インドから中国に伝えられたとされています。

 禅語には禅僧が自身の悟りの境地を示したもののほかに、仏教経典、中国古典、詩文集等の様々な文献からも引用されています。今日では、床の間に掛けられた掛軸(墨蹟)に書かれた言葉として目にしたことのある方も多いのではないでしょうか。

 「不立文字(ふりゅうもんじ)、教外別伝(きょうげべつでん)(文字は全てを表現できず、文字で表現し尽せないところに伝えるべき核心がある)」という禅の家風もあり、禅語はその字義だけを考えても意味の分からないものもあります。禅仏教では自身の実践を重視しますが、禅語の紹介を通して皆様自身が字義の奥に潜む本当の意味、祖師方が伝えんとしてきたものを感じて頂けると幸いです。

 ここでは禅的教育研究グループ「じだんだ」の発行した「禅語カルタ百句」を紹介していきます。「禅語カルタ百句」は難解なイメージを持たれがちな禅語に如何にして親しんで貰うかというテーマのもとに製作されたカルタです。イラストが理解の助けとなり、禅語に触れる第一歩として適したものとなっております。じだんだ代表の柳楽一学師の許可を得てここに掲載してまいりますが、「禅語カルタ百句」にご興味の方は下記までご連絡願います。

 「とっつきにくい禅語に入っていく開かれた門となれば幸いです」柳楽一学

禅的教育研究グループ「じだんだ」 代表:柳楽一学
☎0855-42-0830(隆興寺) mail:Seki56old@iwamicatv.jp